エッセイ「大丈夫じゃない」という勇気
うつ病の人に「頑張って」と言ってはいけない
というのは聞いたことがある人も多いだろう
しかしもうひとつ言ってはいけないことばがあると思う
それは
「大丈夫?」
相手を気遣う優しいことばのように思えるが
自分の責任を放棄するためのことばのようにも思える
自分は「大丈夫?」と聞いて
相手を気遣いました
相手は「大丈夫」と言いました
自分にできることはもうありません
こんな主張をするためのことばのように思えてならない
多くの人は「大丈夫?」と聞かれると
「大丈夫です」と答える
それが大丈夫ではない状態であったとしても
「大丈夫です」と答えるのだ
他人に迷惑をかけてはならない
という思い込みがあるからだろうか
それとも自分自身に
「大丈夫だ」という暗示をかけたいからだろうか
うつ病の場合
人と関わりたくなくて返答が面倒で
「大丈夫です」と答えている場合もあるかもしれない
いずれにせよこのようにして
更なる「大丈夫ではない状況」へと
追い込まれていく
「大丈夫?」と聞く人は
「大丈夫です」以外の返答を想定していない
「大丈夫です」と答えると思って質問している
もし「大丈夫?」と聞かれたとき
「大丈夫じゃない」と答えたらどうなるんだろうと思った
私はあるとき
精神的にも身体的にも追いつめられ
とても働ける状態ではなくなった
いろんな事情があり
それまでなんとか頑張っていたが
それ以上は無理だった
上司に「大丈夫か?」と聞かれた私は
思い切って
「大丈夫じゃないです」と答えた
それと同時に涙があふれ出た
せき止められていたものが崩壊した
上司は「大丈夫じゃない」という返答を聞き
最初は戸惑っていたけれど
その後いろいろ気を遣ってくれた
私は休職し退職してしまったので
その職場で再び働くことはできなかったけれど
あのとき
「大丈夫じゃない」と答えられたからこそ
今私はこうして生きていられるのかもしれない
「大丈夫じゃない」と答えること
それには勇気がいる
もしかしたらその一言で
信用を失うかもしれない
キャリアが壊れるかもしれない
夢へと続く道が遮断されるかもしれない
それは本当に怖い
けれど「大丈夫じゃない」ということばは
今のあなたを守ることばになってくれるはず
そしてそれは
未来のあなたを救うことばになってくれるはず
「大丈夫じゃない」という勇気をもって
生きてみませんか